看板なくした自分の力は
どんなものだろう?
新卒で大手證券会社に入社しました。個人投資家向け営業を5年、その後、組合の専従執行委員を1年半経験。仕事も順調で、給料も悪くない。同期の中でも、そこそこの出世が見込める評価は受けていましたから、会社にも仕事にも強い不満があったわけではありません。ただ、会社の看板、商品の力に乗っかった仕事をしている自覚もあって、本当の自分の力はどんなものなんだ?とは常に思っていました。
そんな時、たまたま会った転職エージェントに「徹底的に考え抜く仕事がありますよ。自分の実力が問われるシビアな仕事です。リクルートの中でもとりわけレベルが高いと思います。柳井さん、やっていけるかな?」と紹介されたのが、リクルートコミュニケーションエンジニアリングでした。これまでやってきたことへの自負もあったので「やっていけるかな?」と言われたことに、ちょっと腹を立てつつ、「考え抜く仕事」というものに惹かれて29歳で転職しました。
情けなさ、悔しさに
涙を流すこともあった。
CEをやめようと思ったことが実は何回かあります。思い出すのはCE3年目、ベテランCEに付いて関わった仕事です。お客様と飲んでいる席で、先方のキーマンというべき方に「お前は仕事を楽しそうにやっているように見えないんだよね」と言われたのです。実際、楽しいと思う余裕もありませんでしたが、右ストレートを食らった気分。こんなことをお客様に言われる自分は情けないと夜も眠れませんでした。その後、3日間10人対象のセッションが終わった時にも、同じ方から厳しい言葉。あまりに悔しくて涙が止まらず、しかしこのままでは終われないと、覚悟を決めた20枚の報告書をまとめて報告プレに臨みました。すると報告書を渡す前に、たたき上げでコストに厳しいジャッジを下すその方から「今回やってよかったよ」と。正直まだ仕事が楽しいとまでは言えませんでしたが、自分が価値があると信じて真剣にやってきたことに、強く自信が持てた出来事でした。
原理原則の上に広がる
CESの可能性を実感。
それからはお客様の前で大きなプレゼンテーションを行ってもビビらなくなりました。お客様への提案に迷いがあるときは、やらせてください、買ってくださいが言えないたちです。前職の際にも、お客様が許容できるリスクを超えて商品の押し売りをしたくない一心で、株は売らず、他の商品で数字を作れないか本気で模索していました。
そんな私の一つの転機が、先輩CEと大手メーカーの全国販売店グループのビジョンを作り浸透させるプロジェクトでした。CES の原理原則を頼りに、グループの未来を託される発注者、販売店の経営者、幹部、若手、お客様、地域関係者のそれぞれにヒアリング、コミュニケーションをとりながら、ビジョンの欠片を見つけていく作業。自分ならどう考えるのか。前提がない中での模索に、怖がらないでやってみたらCEとしていろんなことができるのだという実感を得ることができました。
「自分の思考を磨き続け」
豊かになる仕事。
CEはプレッシャーもあるし、簡単ではないけれど、「探究心」「好奇心」を刺激され続ける。そして「自分の思考を磨き続けられる」仕事です。10年やっても20年やっても飽きることはないと思います。この仕事は本質を突き詰めれば「人の気持ちの真意をわかってあげたり、本当に伝えたいことを伝えてあげたりする仕事」ではないかと思っています。言葉にははっきりできないけれど、仄かに存在する疑問、違和感、好奇心や意見・考えを引き出し、明らかにしていくこと。また伝えたいメッセージを、単に言葉だけでなく、その背景にある意味も含めて相手に届けること。その全てが受け取る相手の状態を踏まえたものでなければなりません。とても繊細な作業だと思います。
CEの仕事を通して、人間の心のたくさんのことを知る、知りえないことがわかる。自分の人生が豊かになっているのを感じています。